もしかしたらの世界
パラレルワールド。もしかしたらの世界。
その世界で私は、無趣味なOLだった。
正確には地元に工場がある中小企業の派遣社員。
初めに採用が決まった頃には結婚していたけれど、そのあと色々あって一度1人になって、更に色々あって今の夫と暮らして来年で10年になる。
趣味はアクセサリー作り。といってもセンスなんてものは持ち合わせてないから、ただ楽しくレジンで作るだけ。お小遣い稼ぎになるかななんて販売なんかに手は出してみるけど、鳴かず飛ばずだ。
昔は所謂3次元のエンタメが好きで、お笑いだったり歌手だったりアイドルだったり、色んなものにお金と時間を注ぎ込んだ。だけどいつからだろう、最後にのめり込んだグループにもあまり食指が動かなくなってからは、友達の好きな物にちょこちょこ首を突っ込んではみたけれど、いまいちのめり込めないまま随分と経ってしまった。
仕事はまあ、ぼちぼちと言っていいんだろうか。
与えられた仕事を機械的にこなす日々は、単調だけどプレッシャーがなくていい。
ただ2〜3年周期で「私このままでいいんだろうか」の波が来るせいで、この10年で3回派遣先を変えて結局元の会社に戻ってきた。年齢のせいか年々条件は下がっていって、選り好みもしていられないものだから給与も順調に右肩下がりだけど、特に使い道もないからそれほど困ることも無い。たまに、ハンドメイドの材料を買い込むだけ買い込んで使わずに持て余すくらいのものだ。
──いかにも平々凡々な主婦OLって感じだな。
──元々は推しがいたら全通とかしてたような人なのにね。
──このヲタク、ちゃんと思い出して戻ってきてくれるかな。
──弱気になっちゃだめだよ、 を信じなきゃ
──ところで ってなんだっけ?
「〇〇さん、いつもつけてるそのアイシャドウ素敵な色ね。どこのを使ってるの?」
仕事の合間、私の目元を見た年下の先輩に何気なくそう尋ねられ、少々面食らった。
素敵、と言われて勿論悪い気はしないが、愛用と言うのも憚られるそれは何のこだわりも無くドラッグストアで掴んだ代物。最低限オフィスでの身だしなみを整える目的以外の何物でもない。
──目の上に色が乗っていればいい、彼女が自分を選ぶ理由はただそれだけ。
──色とかわかんないけど化粧してるっぽく見えるからいいや、それだけで選ばれて、もう何回目の買い替えだろう。
「そんな、どこのって言うようなのじゃないですよ。ドラッグストアで600円くらいのやつ」
「そうなの?いつもその色だからお気に入りなのかなって思って」
「ええ、まあ。でも拘りがないだけなので」
暖簾になんとやらの私の返し。なあんだと言いたげな先輩の顔を横目に、そういえばもうすぐなくなるから新しいのを買わなきゃな、そんなことを考える。
──「底見え」なんて言葉もきっと知らない彼女のメイクボックスはいつもスカスカで、変わり映えがしなかった。ファンデもそう、リップだってもう何年も同じ。
結婚前はもう少し気にしていたような気もするし、一時期はダイエットも頑張っていた気がするけれど、こちらは収入とは正反対に右肩上がりだ。気を付けてはいるつもりだけど、今やもうどう足掻いても霞を食っても太るのだから仕方がない。運動?駅から会社までは歩いてるけど。
そうなると悲しいかな服の選択肢も狭まって、まあもともとセンスもないしいいやって言って似たような服ばかりを選んでしまう。年相応のファッション誌はどれも目の玉が飛び出るほど高い服を薦めてくるから、何の参考にもならない。
9時に会社に着いて、17時に仕事を終えて、ドラッグストアとスーパーに寄って、たまにおいしいものを食べて、寝て、起きて、休日はごろごろして。
友達は昔のヲタク仲間が多いけど、この歳になると新しく誰かと知り合うなんてこともないから、最新の友人は夫と言っても過言ではない。
──平穏安定、一本調子の毎日。凪ってこういうことなんだろうね。
──お金もそんなに使ってないし、きっと余裕があるよね。
──仕事だってそう、ストレス感じることもないし、言われたことだけやればよくて、目指すものも守るものもないもんね、でもさ。
──今の生活、本当に楽しい?
「……あんまり」
突然口から言葉が漏れて、それが自分の声だと気づくまで時間がかかった。
朝の化粧の最中、いつものパレットを取った手が止まる。
──ねえ知ってる?その色、いつも君がメイクの時には極力避ける色なんだよ。パーソナルカラーを見てもらったら使わない方がいいって言われてさ。
「パーソナルカラー?なんでそんなもの見るの?」
──自分に一番似合うメイクとかファッションとか、知りたいと思ったからでしょ。ほんとはもっとオレンジとか、コーラルとか大量に持ってるじゃん。ちょっとは整理しなよってくらい。
「どこにそんなめかしこむ必要があるの。目玉は一組しかないのに?お金勿体ないじゃん、なんでそんな」
──お金はまあないけどそこそこ働いてる方じゃない?毎日ひいひい言いながらあれやんなきゃこれやんなきゃって。足りない足りないって言いながら相応に貰って、まあそれでもお金も時間も足りないって言ってるけど。
──仕事行きたくない現場に行きたいって駄々こねたり推しに恥じない仕事がしたいって突然真人間みたいなこと言ったりさ。
──ダイエット器具買いまくって毎日筋トレして、毎日バキバキに筋肉痛起こしながら通勤してさ、成果はともかく一応ちゃんと努力してるって旦那さんも言ってたじゃん。
──まあもうちょっと家にいてほしいみたいだけどね、でも今の君よりもっとずっと大変そうで、忙しそうで、楽しそうだよ。
「誰のことを言っているの?だって私は」
──ねえ、思い出してよ。
──大事な推しがいるんでしょ。
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いきなり何が始まったのかみたいな話で失礼いたしましたほぼほぼ夢(ダブルミーニング)みたいなものですが。
お祝いのブログを書きたいなあと思っているときに、きっと私の生活ってMeseMoa.がいるおかげでちゃんとできているところっていっぱいあるんだろうなあって思いまして。
もし私がMeseMoa.を知らない世界にいたらどうしてただろうって思ったところからこんな形式のブログというか盛大な妄想になったのでMaze No.9形式で。
MeseMoa.ちゃんがいるから飽きっぽい私が10年も今の職場で頑張れて、次の現場に行きたいからがっつり稼がなきゃって思えて、メンバーが前向きに仕事をしてるから私も頑張らなきゃーって思えて。
ここに来なければきっと出会えなかった沢山の素敵なご縁に恵まれて。
存外近い距離で会えたりするから少しでも見た目を良くしたいなと思えて、いろんな洋服着たいななんて思えて。それに合わせてお化粧を変えることも覚えて。
目の上に色が乗っていればいいやと思っていたカーキ一辺倒のアイシャドウは、ヲタクになる前の私の象徴です。
MeseMoa.にハマってなければきっと今でも化粧は一辺倒、ダイエットもしないでダルダルの体して(今でもダルダルとか言うな)パラレルワールドのドアはきっとすぐ手の届くところにあって、でもそれを開けなかった私は、MeseMoa.に出会えた私は本当に幸せだなと思っています。
これを読んでくださってる人の数だけMeseMoa.との出会いがあって、同時にその数の分だけパラレルワールドはあったのかなと。
そのドアを開けずに出会ってくださった皆様にも、MeseMoa.さんにも心から感謝を伝えたいです。
楽しい毎日と楽しい未来、それから前向きな心をありがとう。
間違って開けてしまったドアを勝手に探してパラレルワールドの私を蹴飛ばして。今に感謝して、2023年3月14日の日本武道館を楽しみにしています。
MeseMoa.さん、10周年本当におめでとうございます。
(参考:https://youtube.com/playlist?list=PLvDWeVYCZ7xF-nu4oHf-AdYK5qhNK0LkX)